2018年エランドール賞 授賞式レポート / 映画レビュー

2018/2/1のエランドール賞授賞式の興奮を伝えたくて、来年以降、一般参加を迷う人のために参考になればと思いレポートを作成しました。 ついでに映画鑑賞レポートです(ネタバレあります)

blank13 (2018年公開)

 映画に限った話ではないが、上映時間が短い映画も長い映画も、最後のシメが肝心だ。どんなに後半に向けて盛り上がった作品でも、納得のいかないラストではすべてが台無しだ。

 

 本作のラストシーンは家族が長年暮らした古アパート。共用廊下を映しながら聞こえてくるのは、告別式シーンで故人のカラオケ定番曲として挙げられたテレサ・テンの「つぐない」を口ずさむ母の歌声。喪服姿の母はアパートの中で窓際に腰かけている。愛煙家だった父の煙草を手に取り、慣れない手つきで火をつける。吸い込んだ煙にむせながらも、漆黒の喪服に白い煙をくゆらせる。絵画のように美しかった。

 

 緊張感ある前半も、客席から笑い声が聞こえていた後半も、すべてこのラストのためにあったのだ。映画のどのシーンがよかったかと聞かれて、ラストシーンがよかったと言える作品が私は好きだ。ラストに向けて積み重ねてきたものが実を結ぶその瞬間に、思わず、してやられたとにんまりする。

 

 2人の息子にとっては、ろくでなしにしか見えない、母に苦労ばかりかけていた大嫌いな父。母だって、あんな父は顔も見たくないだろう?だから見舞いにも行かなかったし、葬儀にも出たくないのだろう?息子たちはきっとそう思っていたに違いない。

 

 告別式に参列した父の知人たちによってつまびらかにされる父の横顔。息子たちは自分の中の父親像とのかい離に戸惑う。

 

 息子から見た父の顔。同じ父が、家庭の外で見せていた顔。母から見た父は、また別の顔を持っていたのである。

 

 人間の多面性を、その面を向けられる人たちの言葉で表現しているのがおもしろい。

 

 鑑賞前は、作品ポスターの構図や配役から、親子の風景を描いた作品だと思っていた。

 そうではなかった。息子たちの知らないその昔の、母と在りし日の父を思い、私は、描かれていない物語に思いを馳せた。

 

 弔い方はひとつではない。故人とのつながりを思い、そのつながりに即して弔うこともできるのだ。葬儀は故人のためでなく、残された人々のためにあると常々思っているが、自分たちが救われるための弔いをいまいちど考え直す機会となった。